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「自民党総裁選の結果を読む」 〜岩見隆夫氏(毎日新聞社編集局顧問)

 安倍新内閣発足の翌日(27日)、東京で行われた岩見さん(時事放談ほかテレビで活躍中)の講演です。「小泉さんとは違い、人の意見に耳を傾けた今回の安倍人事。期待と不安が入り混じっているが、それなりに評価をしたい。しかし、来年夏の参院選挙は安倍さんにとって天下分け目の戦い。いよいよ活劇の開幕」とのこと。1935年山口県生まれ。京大→毎日新聞・政治部一筋・・・が、その経歴です。



 昨日、安倍政権がスタート。記者会見で「論功行賞の組閣か?」との問いに、安倍さんは強く否定した。各紙の見出しも概ね「論功行賞人事」。事実、私が見たところ21人中、14人がそれだ。これは少し多すぎる。が、どの社会でも似たり寄ったりで、ムキになって否定する必要はない。むしろ、独断的な小泉人事と比べれば、「情」が感じられてホッとする。

 今回、期待されていた「サプライズ」はゼロ。が、やろうと思えばできた。福田さんの外相起用と、平沼さんの無所属入閣である。これをやれば、安倍さんの評価は間違いなく上がったと思う。が、福田さんとは考え方が違う。もし「福田外交」になれば、安倍さんは困る。また、無所属で耐えている人が13人もいる。平沼さんだけというわけにはいかない。

 "安倍雪崩現象"が、なぜ起きたか? 自民党という政党が衰弱してきたからではないか。この10数年間に、下駄(公明党)と風(党首の人気)がないと選挙が凌げなくなっている。自民党にとっては来年の参院選は正念場。これを凌ぐには人気の高い党首がどうしてもほしい。そこで安倍さんとなったわけだ。政策よりも先に・・・という切羽詰ったものを感じる。

 もう一つは人事だ。とにかく、この小泉政権の5年半、(大臣に)待ちくたびれている人間がわんさといる。「安倍さんなら」というわけで、各派閥からの要請が殺到した。いま、5回当選以上が100人おり、35人がまだ大臣の経験がない。これでは選挙区に顔向けができないという事情がある。が、フタを開けてみると5回以上は、4人しか入っていなかった。

 福田さんが途中で降りたことも大きい。「福田待望論」が経済界にあり、読売のナベツネさんも裏で奔走していた。が、「年も年だから」という迷セリフを残して突然降りてしまった。「不見識だ!」とナベツネさんは怒っていたが、私も福田さんとゆっくり話し合う機会があって、その点を訊けば「子供とは喧嘩できん」だった。「何が何でも」が薄かったようだ。

 安倍新政権に対する平均的空気は「大丈夫か?」。不安と期待が入り混じっている感じだ。不安の第一は、やはり若さである。年齢ではなく、議員歴だ。これまでは30年過ぎてから首相になった。安倍さんの13年は、あまりにも浅すぎる。小沢さんは36年で、議員歴は安倍さんの3倍だ。「経験」をバカにしてはいけない。その差を何で埋めていくかが重要だ。

 不安の第二は、安倍さんの姿勢が定まらないことだ。滑らかにしゃべるが、聞き終わったあとは何も残らない。例えば、近隣外交。やはり現実問題として「靖国」がネックになる。小泉さんは参拝すると明言した。安倍さんは「行くとも行かないとも言うつもりはない」。このあいまいな対応が分かりにくい。これが小泉さん安倍さんとの違いかもしれない・・・。

 昨日、安倍さんは「小泉構造改革を引き継ぐ」と言った。では、いったい「小泉構造改革」とは何か。小泉さんは「郵政」が構造改革の本丸と断言。衆院で通った法案を参院で否決されたため、衆院を解散するという暴挙をやった。両院議長が止めに入ったが、総理の権力の前にはどうしようもない。結局、勝てば官軍となったが、大きな傷を残したと思う。

 そこまでやった「郵政民営化」とは何か。かつて盟友だった山崎拓さんが私に言う「あれを本気でやろうと思った衆参議員は皆無ではないか」。麻生さんも週刊誌で言う「郵政改革は、小泉さんにとっては目的ではなく、敵か味方かを峻別する手段だった」。これによって旧田中派の残党は潰された。結局、郵政改革は政策ではなく、権力闘争の道具だったのだ。

 旧田中派の拠点としていたのが「郵政」だった。それを粉砕する・・・これが小泉さんの最大の理由だ。いわば「角福戦争」のリターンマッチに他ならない。まさに看板に偽りありである。これが小泉改革の本質とするならば、安倍さんはどういうふうに継承するのだろうか。私はどうも小泉さんに対する安倍さんの、リップサービスのような気がしてならない。

 8月1日、73才で急死した西村元興銀頭取は安倍さんの叔父。彼が死の直前、ある雑誌に掲載された「次の総理に何を望むか」という記事の中で「人の言うことに傾ける耳を持て」と諭した。今回の人事を見れば、私は「耳を傾ける」姿勢があったと思う。小泉さんには全くなかった点だ。「人の意見を聞くと迷ってしまう」と言う彼は、それに徹しきった。

 安倍さんのトータルビジョンは、「美しい国、日本」。彼の著書「美しい国へ」は、41万部という大ベストセラー。読んだ私の印象は「美しい日本」というよりも「強い国、日本」。本の中で「美しい」という文言が見当たらないのが不思議だ。新内閣のキャッチフレーズで私が最も印象に残っているのは、安保大騒動後の池田内閣の「寛容と忍耐」だったが・・・。

 来年夏の参院選は天下分け目の戦い。尋常に闘えば自民党は負ける。前回は小泉ブームで膨れ上がっている。そこで、すでに決まっている参院の候補者を安倍さんは差し替えると言い出した。参院側は猛然と反発。が、負けたら一巻の終わりになる安倍さん、背に腹は変えられない。また、造反組の復党やチルドレンの問題もある。これから活劇が始まる!

 後藤田さんが亡くなる直前、中曽根さんを訪ね、新憲法の前文に「聖徳太子の謂う『和』の精神を盛り込んでほしい」と陳情、「社会や政治に和の精神が消えている。これでは日本は滅びてしまう」。中曽根さんは承知したが、小泉さんはそれをボツに。自民党結党の理念は「和」だったが、小泉さんは自由主義者。この和をめぐって政界再編が起きるのでは?

2006年9月講演録



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